家族シネマ 柳美里
家族シネマ
柳美里(ゆう みり)
講談社
1997年1月31日第1刷
1997年3月15日第4刷
1236円
第116回芥川賞受賞
演劇っぽい展開
10年も経って(現在2008年)ようやく柳の作品を手に取った。自分のマイ・ペースぶりは別に心配していないが、奇妙なことを感じる。作品のことは何一つ知っていなかったということだ。比較するが、鷺沢萠のデビュー作はきわめて古風な趣があった。大学進学に固執していた元セレブなお嬢さんが日本文学史の正統なトレンドに乗って生み出されたもので、以後、作風が模索されるようになっても、基本的にはキチンとした文学作品だった。それであるがためにかえって芥川賞の受賞にはいたらなかったのかもしれない。
それに対して、高校を1年で中退したという柳の作品は特異な表現になっている。読書から博大な知識を積み上げたものではなく、自分の人生から模索されて発生した果実だ。「芥川賞」の照準はそういうものに向けられているようだ。
「家族シネマ」はバタバタした小劇団の芝居の展開を髣髴させる。表題どおり、家族総出演の映画が撮影されようとし、それに巻き込まれた素美だが、引きずられながらもなんとなくビミョーに立ち会ってしまう。「家族」というものの引力の強さを感じさせる。お父さんが一番それへの幻想を抱いているのだが、家族を崩壊させた張本人でもある。お母さんはこんなお父さんのことを「林さん」と呼んで、もはや赤の他人だ。映画を撮る元となったAV女優の妹の存在感が薄いのも至極当然。伏流として登場する彫刻家の深見はベッド代わりにゴムボートに寝ているがこの道具立ても演劇っぽい。年長の男に素美は魅かれるがこれは作者のリアルなところではなかろうか。20~30歳くらい年上の男に惹かれる女って時々いるものだ。危険と安心のあわせもった年齢に見えるのだ。
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