夢を見ずにおやすみ 鷺沢萠
夢を見ずにおやすみ
鷺沢 萠
講談社
1996年1月18日第1刷発行
1300円
初出
「今日も未明に電話は鳴った」「小説現代」1992年6月号
「あなたがいちばん好きなもの」「小説現代」1995年1月号
「夢を見ずにおやすみ」 書き下し
男のアホな生態を知ればグッスリ眠れるのだ
少しずつ少しずつ、作者は中年に近づいていく・・・。その兆しの見える作品だ。天才少女作家の早熟な渋い正統な文体で書かれたデビュー作(「川べりの道」)。プロになって一転して不良少年少女たちの群像を描くようになり(「ハング・ルース」)、この度、書き下した作品は新たな転進に向かっていくべく、落ち着き、というか早くも倦怠感漂う、けれど人間の心の深みをまさぐった意欲作になっている。
誰でも多少は事件性を持っているのかもしれない高校進学。本名松尾めぐみが公木、そして鷺沢のペンネームを持つ作家に育った3年間の高校生活は、進学の背景になった家庭の事情、そして入学した高校の同齢の驚くべき実態を目の当たりにしながら、たぶん、しっかりとネタとしてしこんだ。その吐露は出尽くし、新たな結婚という事件を通過してこの度の3作品に結果した。
「今日も未明に電話は鳴った」と「夢を見ずにおやすみ」にはまだ、高校進学の衝撃がネタにされているが、この3篇によって家族、高校、結婚の体験を文学的に昇華し、少女から大人(中年)へすっかり脱皮した。最高の傑作は「夢を見ずにおやすみ」だ。あちこち荒い言葉づかいが鼻につくが、基本調子はかなり近代文学の伝統に乗って心情を分析して深みに沈んでいる。
父が頭をなでなでしてもらいに通いつめて相当の金額を注ぎ込んだと思われる銀座のバーのママを訪ねて、意外な展開へと進むのだ。ケンカするわけでなく、友だちになるわけでもない。距離は変わらない。銀座のバーの癒しのシステムに気づいていくのだ。泣きたくなるような非生産的な主婦生活を背中にしょって乗り込んだ亡き父馴染みのバーとママ。それを高く評価するわけではないが男どもの解放されるシステムをそこで理解し、わが結婚生活のあり方も見えてくる。男の生態を理解しようやくわが結婚生活も癒される。それでようやく「夢を見ずに寝られそうだ」なのだ。
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